店長・小松とRegaloソムリエ陣の  「レ・コステ」訪問記 2025・夏

店長・小松とRegaloソムリエ陣の 「レ・コステ」訪問記 2025・夏

エノオグ小松のワイナリー訪問記

「Le Coste(レ・コステ)訪問記」

2025年6月中旬、「小倉シェフと味わう初夏のシチリア美食旅8日間」にスタッフとして同行させていただき、シチリアからアブルッツォを経て、ラツィオ州北部にある自然派ワインの聖地「レ・コステ(Le Coste)」を訪れました。ボルセーナ湖を見下ろすグラードリの丘の上、小さな街の静寂の中にその畑とセラーはあります。



ナチュラルワインの世界ではもはや伝説的とも言えるこのワイナリーを訪れることができる日が来るとは思っていませんでした。街の入口、墓地のすぐそばにあるわずか数ヘクタールの畑が、ジャンマルコ・アントヌツィがレ・コステをスタートさせた場所です。私たちが到着すると、ジャンマルコがその小さな起点からすべてを案内してくれました。



事前に聞いていたジャンマルコの評判といえば、「1聞けば100返してくる情熱家」。その熱量に私たちも少し緊張していましたが、実際に会ってみると彼は驚くほど気さくで誠実。どんな質問にも真摯に、そして丁寧に答えてくれる姿が印象的でした。

彼の畑は、火山灰を主体とした鉄分やミネラル豊富な土壌に支えられ、5つ以上の土壌区画を持ち、それぞれに適した品種と仕立てを採用しています。とりわけ私の印象に残ったのは、アレアーティコのアルベレッロ仕立て(株仕立て)の美しい佇まいでした。歩いている途中で、ジャンマルコがふと地面に落ちていた完熟アプリコットを拾い、「食べてみて」と差し出してくれたのですが、かじった瞬間に驚くほどの甘さが広がり、この土地の力を肌で感じる瞬間でもありました。



栽培においては農薬や化学肥料は一切使用せず、畑にはブドウだけでなくオリーブや果樹、ハーブなど多様な植物が自然と共生しています。実際、オリーブオイルやパスタの生産にも力を入れており、農業そのものが一つの生命体として機能している印象を受けました。火山性の軽やかな土壌は、植物の根を深く広く伸ばすことを可能にし、この場所ならではのピュアで集中力ある果実を生み出します。

さらにジャンマルコは、近年ピノ・ネーロやシャルドネを含む10種以上の品種にも挑戦しており、伝統と革新を見事に両立させています。見学の最後には、グラードリの街中にある石造りのセラーへ移動し、熟成中のワインを樽から試飲させていただきました。どれも驚くほど完成度が高く、若いヴィンテージでありながらすでに調和と奥行きを備えており、「今、すでに美味しい」と言いたくなるような味わいばかりでした。



「私は3つの仕事をしている」とジャンマルコは言います。「一つ目は栽培、二つ目は醸造、そして三つ目が熟成。どれが一番難しいか分かるか?」と問われ、私は「栽培」と答えましたが、彼の答えは「熟成」でした。そのタイミングを見極めることが、最も経験と忍耐を要するとのこと。確かに、日本で飲むレ・コステのワインほど「Pazienza(忍耐)」を要するワインも少ないかもしれません。私はこの日以来、彼のワインをより長い視点で捉えるようになり、瓶詰めや輸送の影響を含めて、「今ではなく、未来に開くワイン」だと改めて感じています。



ジャンマルコは、日本の市場に対して強い信頼を寄せており、「日本には、古いレ・コステがたくさんあるんだ。ぜひ飲んでみてほしい」と笑っていました。ワイナリーは直販所を設けておらず、基本的に訪問は予約制かつ非常に限定的。ほとんどのワインはすでに出荷済みでしたが、幸運にも1本だけ持ち帰ることができました。

この訪問を通して感じたのは、レ・コステという場所が単に「ナチュラルワインの造り手」という枠に収まる存在ではないということ。火山と湖が育んだ土地、自然と共にある営み、そして人間の感覚と忍耐力がすべて噛み合ったときに生まれる、まさに“生きたワイン”の姿でした。

レ・コステのワインは、語る前にまず静かに向き合い、時間をかけて付き合うべき存在だと、今では確信しています。

 

 

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